ら、いつも錠が下りていないことを僕は予《あらかじ》め知っていた。それは出入が頻繁なので、いちいち掛けておいたのではたいへん不便なせいであろう。
「あの関所さえ越せば……」
 僕は幸いあたりに人のいないのを見澄すと、胸を躍らせて鉄格子の扉に近づいた。――果然《かぜん》今夜も鉄格子には錠が下りていなかった。
「しめた」
 僕は鉄格子に手をかけると、ソッと押してみた。
 ギギギギギイ。
 鉄格子には狂いが来ているらしく、甲高い金属の擦れあう音がして、僕の肝《きも》を冷やりとさせた。
 こいつはいけない! と思ったが、格子を開けなければ外へ出られない。僕は更に気をつけて、ソッと扉を押しつづけたが、それでもギギギギギイと鉄格子はきしんだ。監守詰所にいる人に、悟られなければよいが……。
「だッ、誰? 清田君か――」
 と、突然詰所のうちから声がした。かなりアルコールが廻っているらしい声だった。僕は電気にひっかかったように、その場に震えだした。露見《ろけん》か?
「おウ……」
 僕は大胆にも作り声をして返事をした。
「早くしろ、早く。出かけるのが遅くなるじゃないか。……」
「うむ――」
 僕は鉄扉を
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