て腕をつっぱった。……
ビシリッ!
「失敗《しま》った。――」
と思ったときは、もう遅かった。杉箸細工の棒切れはもろくも折れて、腕は空を衝き、勢あまって頭を壁にガーンとぶっつけた。
生死の分岐点
そのときの僕の残念さといったら、口にも文字にもあらわせなかった。二月ばかり、並々ならぬ苦心をして、やっと作りあげた棒が、最後の舞台で脆くも折れてしまったのだから、その口惜しさといったらなんといってよいか、腸《はらわた》が熱くなるようであった。
僕は床の上から力なく起きあがった。運命の神はこんなにも意地悪なものかと慨《なげ》きながら……。
僕は暫くジッと鉄扉を睨みつけていた。あの箸棒さえ折れなかったら、今ごろはこの扉がギイッと明いたのだ――と思いながら、指さきで鉄扉をちょんと弾いた。
「呀《あ》ッ。――」
僕は思わず大声で喚《わめ》いた。なんという思いがけないことだろう。僕の指さきに籠《こ》めた僅かばかりの力で、城壁のように動かないと思っていた扉がギイッと音をたてて外へ開いたのだった。渓谷《けいこく》のような深い失望から、たちまち峻岳《しゅんがく》のように高い喜悦《きえ
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