く、早く寝ちまうのだぞオ。――」
そういい置いて、二人の監守は室を出ていった。――靴音はだんだん遠のいて、次の室を明けるらしいガチャンガチャンという音が聞えてきた。僕はなおも五分間を待った。監守が鉤型《かぎがた》に折れた向うの病棟へ廻るのを待つためだった。
いよいよ、時は熟した。
僕は煎餅蒲団《せんべいぶとん》の間から滑りだすと、大胆に行動を開始した。扉の上の欄間に隠してあった杉箸細工の棒切れをとりだすと、かねての手筈どおり、扉の下に腹匍い、棒切れをもった腕を空気穴から出して棒の先で壁を軽く叩きながら、腕金を探った。そんなことをしながらも、もしや廊下を誰かが通りかかって、この大胆な振舞を見られていやしないかと、外が見えぬ僕は、たいへん心配だった。
――棒の先にコツンと錘りが触った。それをコンコンと叩きながら、程よい真中あたりに見当をつけ、そこへ棒切れを押しつけた。僕の心臓はにわかに激しく高鳴った。さあ、巧くゆくか失敗するか、次の瞬間に決るのだ。
「うーン」
棒の先に、だんだんと力を籠《こ》めていった。ギイギイギイと腕金の錘りが浮きだした。僕はここぞと思ってあらん限りの力を出し
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