。そこでは艇長の命令によって、刻々《こくこく》方向舵を曲げたり、噴射気《ふんしゃき》の強さを加減してスピードをととのえたり空気タンクや冷却水の出る具合を直したりするという一番重大で面倒な役目をひきうけていたのだった。
「出航用意!」
 艇長は伝声管《でんせいかん》を口にあてて叫んだ。
「出航用意よろし」
 と猿田飛行士のところから、返事があった。
「進路は小熊座《こぐまざ》の北極星、出航《しゅっこう》始めッ」
 ついに蜂谷艇長は、出発命令を下した。猿田が開閉器《かいへいき》をドーンと、入れると、たちまち起るはげしい爆音、小屋は土砂《どしゃ》に吹きまくられて倒壊《とうかい》した。そのとき機体がスーッと浮きあがったかと思うと、真青《まっさお》な光の尾を大地の方にながながとのこして、宇宙艇はたちまち月明《げつめい》の天空《てんくう》高くまい上った。


   宇宙旅行


 わずか五秒しかたたないのに、新宇宙艇は富士山の高さまで昇った。
 スピードはいよいよ殖えて、それから十秒のちには、成層圏《せいそうけん》に達していた。窓外《そうがい》の空は月は見えながらも、だんだん暗さを増していった。

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