そこで新宇宙艇の進路が変った。大空の丁度《ちょうど》ま上に見える琴座《ことざ》の一等星ベガ一名《いちめい》織女星《しょくじょせい》を目がけて、グングン高くのぼり始めた。
 地球から月世界までの距離は、三十八万四千四百キロメートルという長いもの、それをこの新宇宙艇は、僅《わず》か十日間で飛び越そうという計算であった。
 進路がベガに向けられて、早や三日目になった。もうあたりは黒白《あやめ》も分らぬ闇黒《くらやみ》の世界で、ただ美しい星がギラギラと瞬《またた》くのと、はるかにふりかえると、後にして来た地球がいま丁度夜明けと見えて、大きな円屋根《まるやね》のような球体《きゅうたい》の端《はし》が、太陽の光をうけて半月形《みかづきがた》に金色《こんじき》に美しくかがやきだしたところだった。
 蜂谷艇長は、観測台のところに立って、しきりにオリオン星座のあたりを六分儀《ろくぶぎ》で測《はか》っていたが、やがて器械を下に置くと、手すりのところへ近づいて、下にいるミドリの名を呼んだ。
「ねえ、ミドリさん……」
「アラ、どうかなすって?」
 ミドリは星座図の上に三角|定規《じょうぎ》をパタリと置いて、
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