艇長の顔を見上げた。
「どうも可笑《おか》しいんですよ。もう丸三日になるので、十二万キロは来ていなきゃならないのに、たいへん遅れているんです。始め試験をしたときのような全速度が出ないのです。よもや貴方《あなた》の計算に間違いはないでしょうネ」
「いえ、計算は三つの方法ともチャンと合っていますわ。間違いなしよ」
「間違いなし。……するとこれは、何か別に重大なるわけがなければならんですなア」
 そういって蜂谷艇長は腕をこまねいて考えに沈んだ。
「私の運転の下手《へた》くそ加減《かげん》によるというんでしょう、ねえ艇長!」
 猿田飛行士が、底の方からいやみらしい言葉を投げかけた。
「そうは思わないよ。黙っていたまえ君は……。おう、進君、やがて水を配《くば》る時間だ。第四の樽を開けて置いて呉《く》れたまえ」
 進少年は、通信機のそばを離れて、下に降りていった。床《ゆか》にポッカリと明《あ》いた穴に身体を入れて見えなくなったと思うと、それから間もなく、ワッという悲鳴と共に、一同を呼《よ》ぶ声が聞えてきた。
 艇長は残りの二人を手で制して、ピストル片手に単身《たんしん》底穴《そこあな》に降りていっ
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