たが、軈《やが》て激しい罵《ののし》りの声と共に、見慣れない一人の青年の襟《えり》がみをとって上へ上って来た。
「密航者だ。……この男がいるせいで、この艇が一向計算どおり進行しなかったんだ。なぜ君はわれわれの邪魔をするんだ。君は一体誰だい」
「まあそう怒《おこ》らないで、連れていって下さいよ、僕は新聞記者の佐々砲弾《さっさほうだん》てぇんです。僕一人ぐらい、なんでもないじゃないですか」
 この不慮《ふりょ》の密航者をどうするかについて、艇では大議論が起った。もう地球から十二万キロも離れては、彼を落下傘《パラシュート》で下ろすわけにも行かなかった。そんなことをすれば死んでしまうに決っている。艇長は云った。
「このまま連れてゆくか、それとも引返すかどっちかだ。連れてゆくのなら、食料品が足りないから、今日から皆の食物の分量を四分の一ずつ減《へら》すより外《ほか》ない」
 真先《まっさき》に反対したのは、猿田飛行士だった。
「密航するなんて太い奴だ。構《かま》うことはない。すぐに外へ放り出して下さい。たった一つの楽しみの食物が減るなんて、思っただけでもおれは不賛成だ」
 といって、頬をふくらま
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