せた。ミドリは引返すことに反対した。艇長は遂《つい》に云った。気の毒ながら、この向う見ずの記者に下艇《げてい》して貰うより外はないと。すると先刻《さっき》からジッと考えこんでいた進少年が大声で叫《さけ》んだ。
「艇長さん、それは可哀想《かあいそう》だなア。……じゃいいから、僕の食物を、この佐々《さっさ》のおじさんと半分ずつ食べるということにするから、このままにしてあげてよね、いいでしょう」
「おれの食物の分量さえ減らなきゃ、あとはどうでも構わないよ」
と猿田は云った。
艇長はようやく佐々記者を艇内に置くことを承認した。――佐々はどうなることかとビクビクしていたが、進少年の温い心づかいのため救われたので、少年の手をグッと握りしめ、心から礼を云った。
「あなたは僕の命の恩人だ。……いまにきっと、この御恩《ごおん》はかえしますよ」といった後で、誰にいうともなく「いや世の中には、豪《えら》そうな顔をしていて、実は鬼よりもひどいことをする人間が居《お》るのでねえ……」
と、意味ありげな言葉を漏《も》らした。
月世界上陸
月世界《つきのせかい》の探険に於《おい》て、一番難所と
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