いわれるのは、無引力空間《むいんりょくくうかん》の通過だった。その空間は、丁度《ちょうど》地球の引力と月の引力とが同じ強さのところであって、もしそこでまごまごしていたり、エンジンが止《とま》ったりすると、そこから先、月の方へゆくこともできず、さりとて地球の方へ引かえすことも出来ず宙ぶらりんになってしまって、ただもう餓死《がし》を待つより外しかたがないという恐ろしい空間帯《くうかんたい》だった。
蜂谷艇長《はちやていちょう》の巧《たく》みな指揮が、幸《さいわ》いにエンジンを誤らせることもなく、無事に危険帯を通過させたのだった。乗組員四名――いやいまは五名である――は、ホッと安堵《あんど》の胸をなで下ろした。
やがて地球を出発してから十二日目、いよいよ待ちに待った月世界に着陸するときが来た。ここでは月は、まるで大地のように涯《はて》しなく拡《ひろ》がり、そして地球は、ふりかえると遥かの暗黒《あんこく》の空に、橙色《だいだいいろ》に美しく輝いているのであった。
「さアいよいよ来たぞ」と艇長はさすがに包みきれぬ喜色《きしょく》をうかべて云った。「じゃ大胆に『危難《きなん》の海《うみ》』の南
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