に聳《そび》えるコンドルセに着陸しよう。皆、防寒具《ぼうかんぐ》に酸素|吸入器《きゅうにゅうき》を背負うことを忘れないように。……では着陸用意!」
「着陸用意よろし」
 猿田飛行士は叫んだ。彼はすっかり隙間《すきま》のないほど身固《みがた》めし、腰にはピストルの革袋《かわぶくろ》を、肩から斜《なな》めに、大きな鶴嘴《つるはし》を、そしてズックの雑袋《ざつぶくろ》の中には三本の酒壜を忍ばせて、上陸第一歩は自分だといわんばかりの顔つきをしていた。
「……着陸始めッ……」
 艇は速度をおとし、静かに螺旋《らせん》を描《えが》きながら、荒涼《こうりょう》たる月世界《つきのせかい》に向って舞《ま》いおりていった。
「ねえ蜂谷さん。着陸してから、どうなさるおつもり」
 とミドリがいった。
「やはり貴女《あなた》の電子望遠鏡にうつった白点《はくてん》を真先《まっさき》に探険するつもりですよ。途中いろいろと観測しましたが、あれは大きな孔《あな》なんですネ。しかも地球にある階段に似たものが見えるんですよ。ひょっとすると、人間が作ったものかも知れませんネ」
「ああ、もしや六角博士《ろっかくはかせ》や兄が生
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