、愕《おどろ》きの声を放った。
出発直前の殺人
彫刻のように立っていたミドリは、このとき右腕をあげて無言で前方を指した。
「ナ、なッ……」
学士は愕いて、ミドリの指す前の草叢《くさむら》を見た。
「呀《あ》ッ。……羽沢《はざわ》飛行士が倒れている! これはどうした。ああッ……」
傍《かたわら》へかけよってみると、乗組員の一人である飛行士が白いシャツの胸許《むなもと》のところを真赤《まっか》に染めて倒れていた。調べてみると、彼は心臓の真上を一発の弾丸で射ぬかれて死んでいた。一体こんなところで誰に撃ち殺されたのだろう?
「……ああ、おしまいだ。折角《せっかく》のあたし達の探険……」
ミドリは悲しげに叫ぶと、ガッカリしたのか、大地の上にヘタヘタと身体を崩《くず》した。それは見るも気の毒な気の落としようだった。ミドリの兄は天津百太郎《あまつももたろう》といって、失踪《しっそう》したロケットの操縦士だった。彼女はこんどの探険を企《くわだ》てたのも、恨《うら》みをのんで死んだろうと思われる兄の霊《れい》を喜ばそうためだった。それだのに羽沢飛行士は壮途《そうと》を前にして、突然
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