る筈だった。だから月世界に、乗合《のりあい》バスぐらいの大きさのものがあったとしたら、それは新望遠鏡には丁度一つの微小《びしょう》な点となって見えるだろうという……。
「ミドリさんに早く知らせてやろうと思うが、何処《どこ》へ行ったんだろうな。……」
 と、蜂谷学士はロケットの胴中《どうなか》を出て、土間《どま》に下り立った。
「ミドリさーん。……」
 学士は大きな声をだして、女理学士の名を呼んだ。だがどこにも返事がなかった。彼の顔は俄《にわ》かに不安に曇《くも》った。
「どこへ行ったんだろう。オイ進君、君も探してくれ。
 ……ミドリさーん。……」
「えッ、ミドリさんがいないのですか」
 進少年もロケットの胴中から飛び出して来た。
「ミドリさーん」
 二人は声を合わせてミドリの名を呼びながら、小屋の戸を開いて外へ出てみた。外は真昼のように明るかった。八月十五日の名月が、いま中天《ちゅうてん》に皎々《こうこう》たる光を放って輝いているのだった。……
「おお、ミドリさん。……こんなところにいたんですか。一体どうしたというんです」
 学士は、戸外に悄然《しょうぜん》と立っているミドリの姿を見て
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