界《つきのせかい》は空気もない死の世界で、そこには何者も棲《す》んでいないものと信ぜられていた。だから「危難の海」に現われたこの小さい白点《はくてん》は、月世界の無人境説《むじんきょうせつ》の上に、一抹《いちまつ》の疑念《ぎねん》を生んだ。
念のために、二百|吋《インチ》という世界一の大きな口径の望遠鏡をもつウイルソン山天文台に知らせて調べてもらった。しかしその天文台では、「何《な》にも見えない」という返事をして来たのだった。そしてわが新宇宙艇が月世界探険にのぼる決心だと知るとたいへん愕《おどろ》いて、その暴挙《ぼうきょ》をぜひ慎《つつ》しむようにといくども勧告をしてきたのだった。それにもかかわらず、蜂谷艇長はじめ四人の乗組員の決心は固く、この探険を断念《だんねん》はしなかったのである。だがもしここに乗組員の一人である理学士|天津《あまつ》ミドリ嬢が苦心の結果作りあげた世界に珍らしい電子望遠鏡という名の新型望遠鏡がなかったとしたら、そのときは或いはこの探険を思いとどまったかも知れないけれど……。ミドリ嬢の計算によると、彼女の新望遠鏡は、ウイルソン山天文台のものよりも二十倍も大きく見え
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