です。油断《ゆだん》は禁物《きんもつ》!」
 艇長の眼は湧いてくる泪《なみだ》で、何も見えなかった。


   奇蹟中の奇蹟


 進少年と佐々《さっさ》記者が、蜂谷艇長の指揮する宇宙艇よりも一日早く、無事に地球に到着したといったら、読者は信じるだろうか。いや全くの奇蹟中《きせきちゅう》の奇蹟だった。わけを聞かないでは、誰も信じられないだろう。艇外は漠々《ばくばく》たる宇宙だ。死なない者なんてあるだろうか。
 ところがこの幸運の二人の場合は、その極《きわ》めて稀《まれ》な場合だったのである。二人が飛び出したところは、丁度例の無引力空間だったのである。その空間では身体が上へも下へも落ちはしない。ただ抛《ほう》りだされたときの勢《いきお》いで、無引力空間をユラリユラリと流れるばかりだった。もちろん後から飛びでた佐々記者は進少年のところへ追いついた。
 二人が手を取り合って、最後の覚悟を語りあっているところへ、横合から漂然《ひょうぜん》と流れて来た一個の巨船《きょせん》――それこそ意外中の意外、というべき猿田飛行士が乗り逃げをした筈《はず》の新宇宙号だった。
 二人は夢かとばかり愕《おどろ》
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