一本一本、運命の籤《くじ》は引いてゆかれる。ミドリが最初の籤を引いて、白だった。次は兄の天津が引いてこれがまた白。その次に籤を引いたのが進少年だった。
「……あッ赤だ。僕が下りるに決った」
 一同はハッとして少年の顔を見た。
 佐々記者は遂《つい》に決心して、前に自分の生命を救ってくれた少年に、このたびは自分の命を捧《ささ》げたいと申出たが、艇長ははじめの誓約《せいやく》をたてにして承知しなかった。悲惨《ひさん》なる光景だった。送る者の辛《つら》さは、去《ゆ》く者の悲しさに数倍した。
「じゃ、皆さん、ご機嫌よう!」
 弱々しいことの嫌いな進少年は、決然として窓に近づくと、エイッと懸《か》け声《ごえ》もろとも艇外にとび出した。
「僕も一緒に行く。待って………」
 呀《あ》ッという間もなく、つづいて窓外に飛び出したのは、進少年に助けられた恩のある佐々記者であった。それを見るより、艇長は素早く窓のところに身を寄せ、厳然《げんぜん》と云い放った。
「この尊い犠牲を生かさねば、われわれの義務は果せませんぞオ。――さあ全員配置について、スピードをあげましょう。ここは丁度、恐ろしい無引力空間の近く
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