めしく立ち働いていた。
「おう、ミドリさん、どうも困ったことができた」
「まアいやですわ、艇長さん。何《ど》うしたのですの」
「この旧型《きゅうがた》の宇宙艇は、スピードの割にとても燃料を喰うんです。このままで行くと、三十万キロは行けますが、あと八万キロが全く動けない勘定《かんじょう》です。これは地球へ帰れないことになった。ああ……」
当分二人だけの心配にして置いたが、出発後三日目には、どうしても公表しないわけにはゆかなくなった。
この公表に対しては、一同は俄《にわ》かに面《おもて》を曇《くも》らせた。楽しい帰還の旅が、にわかに不安の旅に変ってしまった。
「一体どうすりゃいいんです。艇長に万事《ばんじ》一任《いちにん》しますよ」
なんでも艇長の命令どおりにやるというのだった。そこで蜂谷はついに苦しい決心をしなければならなかった。
「皆さん。この上は誰か一人、この艇から下《お》りて頂《いただ》かねばなりません。それで公平のために抽籤《ちゅうせん》をします。赤い印のある籤《くじ》を引いた方は、貴《とうと》い犠牲《ぎせい》となって、この窓から飛び出して頂きます」一同は顔を見合わせた。
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