ぐらいの気候だそうで、そこには空気もあり、また水もあるのだという。その月の生物も人間と別に大した変りはないが、まだ智恵はあまり発達していないという。とにかく意外なる月の地中《ちちゅう》社会のお蔭で、一行は寒さに倒れることもなくて助かった。
 ただ気の毒なのは、進の父六角博士の容態《ようだい》だった。博士は老衰病《ろうすいびょう》のため、ひどく弱っていて、動かすことも出来ない有様だった。
 その夜一行は、物珍らしい月の人間に囲まれていろいろな話をしたり聞いたり、また奇妙な食物を御馳走になったりして過ごした。一行は寂《さび》しさから紛《まぎ》れて、こうして三晩を過ごしたのだった。
 それは四日目の朝に相当する時刻だった。もっとも月の世界では、十四日間も昼間ばかりぶっつづき、あとの十四日は夜ばかりつづくという変な世界だったので、事実はいつも明るかったのだった。とにかくその朝、天津《あまつ》飛行士の作った黄金階段に見張りに出ていたクヌヤという月の住人が急いで天津のところへ駈けつけてきた。
「なんだか真白な、大きなものが砂地に突立《つきた》っていますよ」
 真白な大きなもの――というので、天津は
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