したか。隊長の坊ちゃんでしたか。まあよく月の世界まで尋《たず》ねて来られましたネ」
「早く父に会わせて下さい。どこにいるのですか」
「ああ、お父さまですか。……」といって天津飛行士はちょっと顔を曇《くも》らせたが「……実はお父さまはこの地底《ちてい》で病気をしていらっしゃいます。しかしあなたをごらんになれば、どんなに元気におなりか分りませんよ。さあ参りましょう」
天津は先に立って、黄金階段を下りはじめた。「地底《ちてい》」へ下りてゆく間に、一行は始めて月の世界の生物の話を聞くことができて、奇異《きい》の想《おも》いにうたれた。
それによると、月の世界の表面には、何も住んでいない。それは第一空気もなく水もないし太陽が直射すると摂氏《せっし》の百二十度にも上《のぼ》るのに、夜となれば反対に零下百二十度にも下《くだ》ってしまうという温度の激変《げきへん》があって、とても生物が住めない状態にあった。しかし月世界に生物が全く居ないわけではない。この世界にもやっぱり数億人の生物が住んでいるのだった。彼等は皆、月の地中深く穴居《けっきょ》生活をしているのだった。地中はまだ暖く、早春《そうしゅん》
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