宇宙艇の尾部《びぶ》から、ドッと白い煙が上ったと思うと、艇は突然ユラユラと頭部をふると見る間に、サッと空に飛び上ってしまった。
「呀《あ》ッ、大変だ。艇が動きだしたぞ。これは一大事……。ま待てッ」
「アラどうしましょう。……」
 といっている間《ま》に、艇の姿は青白い瓦斯《ガス》を噴射《ふんしゃ》しながら、グングン空高くのぼって、みるみる遠ざかっていった。
 艇長とミドリと進の三人は、あまりの思いがけぬ出来ごとのため、死人のような顔色になって駈けつけたが、もう間に合わなかった。ただ艇の繋《つな》いであったところに、マスクを被《かぶ》った人間が一人、脚をピストルで撃たれて朱《あけ》に染《そ》まって倒れているのを発見したばかりだった。
 それを助け起してみると、なんのこと、艇内に残っているように命じてあった佐々《さっさ》記者だった。彼は深傷《ふかで》に気を失っていたが、ようやく正気《しょうき》にかえって一行に縋《すが》りついた。
「猿田飛行士が、艇にひとり乗って逃げだしたのです。はじめ猿田さんは、金塊《きんかい》を持って艇内に入って来ましたが、もう一度取りにゆくから一緒にゆけといって、私を
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