気《け》をふるった結果かもしれなかった。もちろんキンチャコフも、意識だけがよみがえったというだけで、ゴンドラの底に身うごきもしないで転っていることは、六条の場合と大差《たいさ》なかったのである。
「うーむ、よく眠った」
これが意識を回復した六条がいった最初の言葉だった。
それからまたあと三時間ばかり、彼は昏々《こんこん》として眠った。
その次に目覚めたとき、彼は本当に気がついたのであった。ゴンドラの中には飛びちった血の痕《あと》がもうくろずんでいた。ふしぎに生きているなという気持であった。彼は左手をのばして、あたりを幾度も幾度もさぐっていた。やがて硬い丸いものが二つ三つ、彼の指先にふれた。
握りしめて、眼の前へもってきて開くと、それは固形ウィスキーであった。ああ天の助けだなと、そのとき彼は思ったことであった。
彼は、貪《むさぼ》るように、その二つを喰べた。それはまるで霊薬《れいやく》のごとくに、彼を元気づけた。彼は思わず、最後の一つを口のところへ持っていきかけたが、急にそれをやめて、
「キンチャコフ!」
とよんだ。
「……」
キンチャコフの腕が、六条の腕の方につつーっと搦
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