、これまで連続していた記憶の切れ目であったのである。
 そのころ、人事|不省《ふせい》の両人をのせた気球は、不連続線の中につき入って、はげしく翻弄《ほうろう》されていた。ものすごい上昇気流が、気球をひっぱりこんだから、たまらない。今の今まで下降一方だった気球は、あべこべにぐんぐん上昇をはじめた。一千メートル、二千メートルは、瞬間にとび越して、まるで地球の外にとんでいってしまうかのように、なおもぐんぐんと雲と雲の間を昇っていった。あたりは、岩窟《がんくつ》に入ったように真暗で、そして雹《ひょう》がとんでいた。折々ぴかりとはげしい電光が、密雲の間で光った。
 それからどの位経ったか、よく分らない。キンチャコフの方が先に気がついたらしく、そのころ六条は、気息奄々《きそくえんえん》としてゴンドラの底に横たわっていた。キンチャコフが六条を絞め殺そうとすれば、わけないことであったけれど、彼は別になんにもしなかった。それはどういうわけだかよく分らないが、キンチャコフは、もう再び六条を襲うのがいやになったのかもしれないし、或いはまだ鮮血を胸から顔から一杯に彩《いろど》ったすさまじい六条の姿に怖《お》じ
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