い》にのがれ出でた相良十吉であったが、風間真人の執念《しゅうねん》は未だにくつることなく彼《か》の人の上にかかっているようだ。二つの浮船の行手間近かに聳え立つは荒涼《こうりょう》として死の国の城壁《じょうへき》かと思わるる月陰《げついん》の地表である。凄惨《せいさん》限《かぎ》りなき空中墳墓《くうちゅうふんぼ》! おおこの奇怪きわまりなき光景を望んで気が変にならないでいられるものがあり得ようか。私は、真弓子と其の愛人に望遠鏡をゆずることさえ忘れて、其の場に立ちつくしていたのである。



底本:「海野十三全集 第1巻 遺言状放送」三一書房
   1990(平成2)年10月15日第1版第1刷発行
初出:「新青年」博文館
   1928(昭和3)年10月号
入力:tatsuki
校正:門田裕志、小林繁雄
2005年6月25日作成
青空文庫作成ファイル:
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