た。

 次の日の朝であった。例によって私は午前十時に目を醒《さ》ました。窓を開いて見ると珍《めず》らしく快晴だった。ベルを鳴らすと、執事の矢口と、根賀地が入って来た。
「先生、あの若僧《わかぞう》はどうしましょう。先生の傷はどうですか」
 と根賀地が尋《たず》ねた。私は左腕を少し曲げてみたが、針でさすような疼痛《とうつう》につきあたった。
「昨夜《ゆうべ》、あれから手術をやって貰ったのでもう心配はない。それからあの若先生だが、もう三十分もしたらこっちへ来て貰うのだナ。昨夜《ゆうべ》相良氏はどうした?」
「あの男は、今朝も例のとおり、会社へ出かけてゆきましたよ。青い顔はしていましたが不思議に元気でしたよ。昨夜《ゆうべ》の容子《ようす》じゃ、自殺するかナ、と思いましたが、今朝の塩梅《あんばい》じゃ、相良十吉少々気が変なようですね」
「なにか手に持っていたか」
「近頃になく持ちものが多いようでしたよ。手さげ鞄《かばん》に小さい包が二つ」
 ここで私は黙り込んだ。不図《ふと》眼をあげると根賀地が常になく難しい面持をしていた。そして急に私を呼びかけたのである。
「先生。今度の事件ばかりは、僕に
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