ね》に違いありません。私は何もかも知っているのです。こやつを生かして置いては……」
川股と呼ぶ若者は真弓子の方にすりよって、なにものかを求めるようであった。真弓子は渡したものかどうか躊躇《ちゅうちょ》の色が流れている。
このとき二人が背にしていた入口の扉《ドア》が音もなく開いてピストルが顔を出した。
「二人とも手を上げろ、命がないぞ」
根賀地の声だった。川股と真弓子は観念して両手を高くさしあげた。見れば根賀地は真紅《まっか》な顔をしていた。彼の眼と唇とは私に読唇術で呼びかけていた。
それに答えると、根賀地の唇は無音ながら高速度に開いたり閉ったり左右へ動いた。
「ヤヤッ!」
私は根賀地の語るところの重大事件に、思わず驚きの声を発してしまった。
「お二人さん。お気の毒ながら、その室で少し休憩《きゅうけい》していて下さい。いずれのち程、お迎えに誰かを寄越《よこ》します。一秒を争うので、少し荒っぽい方法で失礼ですが……」
根賀地はすかさず、二人を川股の入っていた室に閉じこめた。
一大事! 私達二人は屋上に出て、格納庫《かくのうこ》の扉《ドア》をひらくと飛行機を引っぱり出した。われ等の搭乗機は直《ただ》ちに急角度で上昇を始めた。既に天空には夥《おびただ》しき飛行機が入り乱れて飛んでいた。どれもこれも言い合わせたように、東へ向って舵《かじ》をとっていた。太陽は中天に赫々《かくかく》と輝いていた。
「天文台へ!」
わが搭乗機だけが機首を[#「機首を」は底本では「機種を」]西南に向けて飛翔《ひしょう》する。プロペラはものすさまじい悲鳴をあげていた。すれちがう毎に他の飛行機からは、赤旗をうちふってわれ等の快速力を咎《とが》めるのであった。
「先生、東に何が見えましたか?」
「いや見えない。宇宙艇が越中島を飛び出したのは何時何分だった?」
「張り込んでいた中井の電話では十一時三十三分だそうです」
「もう十八分経っている。――相良が宇宙艇にのりこんだのは本当だろうね」
「宇宙艇係の特別職工が言明したのだから間違いじゃないでしょう。相良一人が乗りこんで試験をしていたのが、どうした拍子にか空へ飛び出したというのです。職工は言っています。相良さんが乗りこんでいる内、機械が故障になって飛び出したのだと」
「そりゃどちらでもよい。会社はさわいでいるか」
「そりゃ大変なものだそうです
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