飛行機のプロペラの唸りがあった。叩きつぶすような、機関銃の響が、聞えてくることもあった。何が落下するのか、屋根の上あたりに、キラキラと火花が光って、やがてバラバラと、礫《つぶて》のようなものが、避難民の頭上に降ってきた。
「ウ、ウ、グわーン、グわあーン」
 大地が裂けるような物音が、あちらでも、こちらでもした。それは、ひっきりなしに、米軍が投げおとす爆弾の、炸裂《さくれつ》する響だった。その度《たび》ごとに、
「キャーッ」
「こ、こ、こ、殺して呉《く》れッ」
「あーれーッ」
 と、此の世の声とは思えぬ恐ろしい悲鳴が聞えた。阿鼻叫喚《あびきょうかん》とは、正に、その夜のことだったろう。
 その狂乱の巷《ちまた》の真ッ唯中に、これは、ちと風変りな会話をしている二人の男があった。
「旦那、もし、旦那」印袢纏《しるしばんてん》を着ていることが、紺《こん》の香《かおり》で、それと判った。
「ウ、なんだネ」
 こっちは、頤髯《あごひげ》がある――向う側のビルディングの窓硝子《まどガラス》が照空灯の反射で、ピカリと閃《ひらめ》いたので、その頤髯《あごひげ》が見えた。
「いま、何時ごろでしょうかネ」熱
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