地方からの買出《かいだ》し人が来ると、商談を纏《まと》め、大きい木の箱に詰《つ》めて、秋葉原《あきはばら》駅、汐留《しおどめ》駅、飯田町《いいだまち》駅、浅草《あさくさ》駅などへそれぞれ送って貨車に積み、広く日本全国へ発送するのだった。長造は昔ながらの花川戸に、老舗《しにせ》を張っていた。長男の黄一郎は、思う仔細《しさい》があって、東京一の盛り場と云われる新宿を、すこし郊外に行ったところに店を作っていたのだった。そこには妻君《さいくん》の喜代子と、二人の間にできたミツ子という赤ン坊との三人の外《ほか》に三人の雇人がいた。今日は本家《ほんけ》の大旦那長造の誕生日であるから、店を頼んで、浅草へ出て来たのだった。
「さア、おじいちゃま、今晩は、お辞儀《じぎ》なさいよ、ミツ子」
お湯から出て来て、廊下で挨拶《あいさつ》をしているらしい喜代子の声がした。
「やあ、ミツ坊、よく来たね。はッは」長造が大きな声であやしているらしかった。「お湯が熱かったのかい、林檎《りんご》のような頬《ほ》ッぺたをしているね。どれどれ、おじいちゃんが抱っこしてやろう。さあ、おいで、アッパッパ」
「やあ、笑った、笑った
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