》りだった。須田町《すだちょう》までくると、無理やりに下ろされちまった。コンクリートの、狭い階段をトコトコ上ってゆくと、地上に出た。
「横断する方は、こっちへ来て下さい」
「自動車は、警笛を鳴らしながら走って下さい。警笛は、飛行機に聞えないから、いくら鳴らしても、いいですよ」
「懐中電灯は、そのままでは明るすぎますから、ここに赤い布《きれ》がありますから、それを附けて下さァい」
あちこちに、メガフォンの太い声が交叉《こうさ》して、布を被せた警戒灯が、ブラブラと左右に揺れていた。すべて秩序正しい警戒ぶりだった。
(それにしても、さっき見たのは、あれは夢だったかしら。悪夢《あくむ》! 悪夢!)
弦三は、雷門の地下道に蟠《わだかま》る不穏《ふおん》な群衆のことを、この須田町の秩序正しい青年団に対比して、悪夢を見たように感じたのだった。しかし、それは果して夢であったろうか。いやいや弦三は、確かに、あの呪《のろ》いにみちた悪魔の声をきいたのだった。
弦三は、一つ自動車を呼びとめて、新宿の向うまで、走らせようと考えた。弦三は、二十一になる唯今まで、誰かに自動車に乗せて貰ったことはあるが、自分
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