ールとが触れるところから、青い火花が出て、それが敵機に発見される虞《おそ》れがあるからだった。
 それは弦三の目算違《もくさんちが》いだった。彼は、雷門《かみなりもん》まで出ると、地下鉄の中に、もぐり込んだ。
 地下鉄の中には、煌々《こうこう》と昼を欺《あざむ》くような明るい灯がついていた。だが、暗黒恐怖症の市民が、後から後へと、ドンドン這入《はい》りこんでいて、見動きもならぬ混雑だった。
「ここん中へ入っとれば、爆弾なんか、大丈夫ですよ」五十近い唇の厚い老人が、たった一人で、こんなことを喋《しゃべ》っていた。
「全《まった》くですネ。近頃のお金持は、てんでに自分の屋敷の下に一間や二間の地下室を持っているそうですが、儂《わし》たちプロレタリアには、そんな気の利いたものが、ありませんのでねえ」
 そう云ったのは、長髪の、薄気味わるい眼付の男だった。
「お蔭さまで、助りますよ」歯の抜けたお婆さんが、臍繰《へそく》り金《がね》の財布を片手でソッと抑えながら、これに和した。
「だが、毒瓦斯《どくガス》が来ると、この孔《あな》の中は駄目になるぜ。駅長に云って、早く入口の鉄扉《てつど》を下ろさせよ
前へ 次へ
全224ページ中71ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング