たごやま》の山顛《さんてん》には、闇がいよいよ濃くなって来た。月のない空には、三つ四つの星が、高い夜の空に、ドンヨリした光輝《こうき》を放っていた。やや冷え冷えとする、風のない夜だった。
警報隊長の四万《しま》中尉は、兵員の間に交って、いつもは東京全市に正午の時刻を報せる大サイレンの真下《ました》に立っていた。
「中尉殿、報告」
傍《かたわ》らの松の木の蔭に、天幕《テント》を張り、地面に座っている一団から、飛び出して来た兵士だった。小さい鐘を横にしたような中に、細いカンテラの灯が動いている、その微《かす》かな灯影《ほかげ》の周囲に三四人の兵士が跼《すわ》っていた。よく見ると一人は真黒な函に入った器械の傍で卓上電話機のようなものを、耳と口とに、圧しあてていた。これは司令部との間を繋《つな》ぐ有線電話班の一隊に、違いなかった。
「おう」
四万中尉が、声をかけた。
「司令部より命令がありました。空襲警報用意! 終り」
「うん。鳥渡《ちょっと》待て」中尉は、つかつかと、サイレンの開閉器のところへ歩みよって、そこに立っている兵士に訊いた。「空襲警報用意があった。準備はいいようだな」
「はッ
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