すます悪いという話だよ」
「それほどでも無いでしょう。ことに清二の乗っているのは、潜水艦の中でも最新式の伊号《いごう》一〇一というやつで、太平洋を二回往復ができるそうだから、心配はいりませんよ」
「だが、水の中に潜っていることは、同じだろう。危いことも同じだよ」
そこへ廊下をバタバタ駈けてくる跫音《あしおと》が聞こえてきた。ヒョックリ真ンまるい顔を出したのは中学生の素六だった。
「お父様も、兄ちゃんも、あっちへ来て下さいって、御膳《おぜん》ができたからサ」
「そうか、じゃお父様、参りましょう」黄一郎は、腰を起して、父親を促《うなが》した。
「うン、――よっこらしょい」と長造は煙管《きせる》をポンと一つ、長火鉢の角《かど》で叩くと、立ち上った。「今日は下町をぐるッと廻って大変だったよ。品物が動かんね、お前の方の店はどうだい」
「駄目ですね。新宿が近いのですが、よくありませんね。寧《むし》ろ甲府《こうふ》方面へ出ます。この鼻緒商売《はなおしょうばい》も、不景気知らずの昔とは、大分違って来たようですね」
「第一、この辺《へん》に問屋が多すぎるよ」
長造は頤《あご》を左右《さゆう》にしゃく
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