な」
千手大尉は、照準を敵機の司令機の重油タンクの附近につけた。出来るなら、陸奥の艦上から、敵機を離したいと思ったが、それは反《かえ》って容易に、敵の爆撃に委《まか》せるようなものであった。万一のことを思うと、鳥渡《ちょっと》、慄然《りつぜん》としないわけに行かなかった。
(旗艦《きかん》陸奥《むつ》が、爆沈されたらば、わが艦隊の士気は、どんなに喪《うしな》われることだろう!)楽天家の大尉も、今日ばかりは、不安に思わずにはいられなかった。
だが、事ここに至って、躊躇《ちゅうちょ》はいけない。
「戦闘用意!」大尉は、僚機の方へ、手を振って合図をした。
「戦闘始めイッ!」
エンジンを全開にして、宙返りの用意を整《ととの》えながら、全速力で敵機へ突入した。
敵は早くも機首を下げて、襲撃の形を示した。
そのとき、極めて不思議なことが起った。まだ二|聯装《れんそう》の機関銃の引金を引かないのに、向ってきた敵機は、爆弾でも叩きつけられたかのように、機翼全体に拡がる真赤な火焔に裹《つつ》まれ、木の葉のように、海上目懸けて、墜落して行った。大尉は、まるで狐につままれたような気がした。始めて気
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