達の家と、それ等の人々のために存在しているような感のあるお湯や、郵便局、荒物屋《あらものや》、味噌《みそ》醤油《しょうゆ》酒《さけ》を売る店、米屋などが、一軒ずつ細々と暮しを立てているだけだった。その中で、最も新しい店の一つとして、小さなラジオ店が一軒あった。
「浩さんは、居なさらぬかな」そういって、店先を覗《のぞ》きこんだのは、この小さな町の町長である吉田清左衛門《よしだせいざえもん》だった。
「あ、兄は先刻、平磯《ひらいそ》無線まで、出掛けたんでございますよ」そう云いながら顔を出したのは、ここの店をやっている夏目浩《なつめひろし》の妹にあたる真弓という若い女だった。記憶のよい読者は、彼女が神田のキャバレ・イーグルで、そこがG《ゲー》・P《ペー》・U《ウー》の秘密会合所と知らないで勤めているところを、団員を装《よそお》って入り込んでいた帆村探偵に助け出され、この国許《くにもと》の磯崎へ、送りかえしてもらったことを覚えていられるだろう。
「ああ、それでは――」と、町長の吉田老人は独りで合点《がってん》をしながら「防空監視哨の電話設備を、平磯無線へ借りにいって下すったのだね。いや、こんど
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