方で、銃声が響いた。
「パ、パ、パン!」
うむ、さては、怪しい者だ。
三発の短銃《ピストル》の音に、堤《つつみ》をきられたように、向うの方に、銃声が起った。バラバラと、弾丸が飛んでくる!
丁度《ちょうど》、そのとき、異様な響をたてて、一台の飛行機が、火焔に包まれ、錐揉《きりも》みになって、落下してきた。焼けのこった機翼の尖端《せんたん》に、チラリと、真赤な日の丸が見えた、と思った。次の瞬間には、囂然《ごうぜん》たる音響をあげて放送局裏の松林の真上に、機首をつっこんだ。パチパチと、物凄い音がして、松林が、ドッと燃えあがった。急に、あたりは、赤々と照し出された。そこは、吉奈軍曹が、突入したあたりだった。
見よ、局舎のまわりには、四五百名近い人間が集っていた。彼等の半分は、陸軍々人だった。のこりの半分は、背広だの、学生服だの、雑然たる服装をしていた。顔は、マスクで見えない。悉《ことごと》くの人間が、防毒マスクをしていた。軍隊と市民との混成隊とでも云いたいものであった。
(なぜだ。なぜだッ)
東山少尉は、不思議な軍隊を向うに廻して不審をうった。彼等は、こちらの陣地を認めて、小銃を乱射し、手榴弾《しゅりゅうだん》を投げつけた。小銃はとどいたが、手榴弾は、ずっと遠方で炸裂《さくれつ》した。
軍隊を狙撃《そげき》する軍隊なのである。そのような、不可解な軍隊を向うに廻して、東山少尉の部下は、敵慨心《てきがいしん》を起す前に、悒鬱《ゆううつ》にならないわけにゆかなかった。
向うの集団は、二手に別れた。一隊は、局舎の周囲を、グルグル廻っては、しきりに発砲していた。他の一隊は、地に匍《は》い局舎を掩護物《えんごぶつ》にして、ジリジリと、こっちを向いて進撃してきた。
少尉の部下は、イライラしてきたが、少尉は、まだ発砲の号令を出さなかった。
(たしかに、おかしい。あの兵士等の、鉄冑《てつかぶと》の被《かぶ》り様《よう》は怪《あやし》い。姿勢も、よろしくない。うン、これは、真正《ほんと》の軍隊ではない。それならば、よオしッ)
「撃《う》ち方《かた》用意!」東山少尉は、マスクを取ると、大声に叫んだのだった。「敵は陸軍々人の服装をしているが、不逞群衆《ふていぐんしゅう》の仮装《かそう》であると認める。十分に撃ちまくれ、判ったな。――左翼、中央の両隊の目標は、敵の散開線《さんかいせん
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