報発令!」
アナウンサーは、司令官の命令を復誦した。
「よろしい。落ちついて放送せよ」
アナウンサーは大きくうなずいて、マイクロホンに向かって唾《つば》をのんだ。さすがに顔の色がちがっている。
伝令があわただしく駈けてゆく。参謀が地図の上に赤鉛筆で数字を書き込む。副官が奥の戸棚から大きな掛図を小脇にかかえてきて、下士官に渡す。下士官は要領よくそれを壁に掛けてゆく。
ジ、ジ、ジーとしきりにベルが鳴る。着剣《つけけん》をした警戒兵がドヤドヤと入ってきて、扉の脇に立つ。――防衛司令部の中はまるで鉄工場のように活発になった。
暁の夢を破られた市民は、ドッと外にとびだした。サイレンがブーッ、ブーッと息をつくように鳴っている。夜霧でびっしょり濡れた朝の街路の上を拡声器から出るラジオの音がガンガンと響いてゆく。
「……空襲警報……空襲警報が発せられました。敵機は約二時間以内に帝都上空に現れるものと見られます。あッ……、ただ今、防衛司令官から諭告が発せられる模様であります。……香取閣下を御紹介いたします」
それにつづいて、香取将軍の重々しい声が響いてきた。
「私は香取中将であります。先程の
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