家の外の毒瓦斯は途中に前室があるので、奥の防毒室には瓦斯がほとんど入ってこないというわけさ」
「あら、うまいことを考えたのね。どこで教わってきたの」
「なァに、『空襲警報』という本があったのを知っているだろう。あれを本箱の中にしまっておいた。それを、今日は引ぱりだして、見ながら作っているんだよ。ハッハッハッ」
「まあ、その本をしまっておいてよかったわね、兄さん」
「さあ仕事はまだある。急いで急いで」
 旗男は、さらに竹男と晴子とをうながして、前室にあてた八畳の部屋にある押入の中のものをドンドン外に出して、この押入に眼張をほどこした。
「兄さん、ここは、お手伝いさん用の防毒室なのかい」
「そうじゃないよ。お手伝いさんも皆と一緒だ。これは、万一、第一防毒室が壊れても逃げこめるように作ったんだ。つまり第二防毒室さ」
 旗男は、これでもう大丈夫だと思った。それに防毒面が一つあるから誰か時々これをかぶって外に出て、ちょっと防毒面と頭の間に指で隙間をつくり、嗅《か》いでみればよい。
 窒息性のホスゲンは堆肥くさく、催涙性のクロル・ピクリンはツーンと胡椒《こしょう》くさく、糜爛性のイペリットは芥子《
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