せてコソコソ囁《ささや》いていたが、やがて、一人の少年が一番前に出て、直立不動の姿勢をとると、両手をあげて大声で叫んだ。
「甲の上の、靴屋のおじさんとおばさん、バンザーイ」
「うわーッ、バンザーイ。バンザーイ」
 思いがけない万歳の声に、靴屋のおじさんは、びっくり仰天したが、ハラハラと涙をこぼし、溝板《どぶいた》に立ちあがるなり、
「忠勇なる少年諸君、バンザーイ。……おじさんも仕事をはげむから、どうか御国のために、帝都の防衛のことはみなさんによく頼んだよ。おじさんは嬉しい……」
 そういう声の下に、そこにニコニコと立っていた鍛冶屋の鉄造の胸にワッといってすがりついた。


   孝行の防毒室


 防空飛行隊の強行偵察のかいもなく、帝国領土内に侵入したと思われた敵機の行方はついにわからなくなってしまった。防衛司令部へは「敵機ヲ発見セズ」という報告ばかりが集ってきた。各地の監視哨からも、なんの新しい報告も入ってこない。――帝都の附近は、午後十一時になって、ひとまず非常管制が解かれた。
「空襲警報解除! 只今より警戒管制!」
 こんな夜更《よふけ》に、睡《ねむ》りもやらぬ少年団は、命令一下
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