方向をつきとめないうちに、怪電波は消えてしまいました。北西の方向らしいとわかったきりで、明瞭《めいりょう》でありませぬ」
「敵機は、よほど用心しているな。相当に高く飛んで来ているように考えられる」
 そのとき、通信兵がツカツカと室に入ってきて、一枚の紙片を軍曹に渡した。
「あッ。……ただ今、先発隊の第二号機から通信がありました。――『本機ニ二三〇三地点ニ達セルモ敵機ヲ発見スルニ至ラズ』……とあります」
「あッ。……ただ今、先発隊の第二号機から通信がありました。――『本機ニ三〇三地点ニ達セルモ敵機ヲ発見スルニ至ラズ』……とあります」
 防空飛行隊が暗夜に必死の活動をつづけている間、帝都では、非常管制をはじめ、あらゆる防護の手段が着々として用意されていった。
 五反田の裏通《うらどおり》では、闇の中に、防護団の少年と住民との間に、小ぜりあいが始まっていた。
「おじさん。どうしても灯を消さないというのなら、僕は電灯をたたきこわしちゃうがいいかい」
「そんな乱暴なことをいうやつがあるか。電灯の笠には、チャンと被《おおい》がしてあるし、窓には戸もしめてあるよ。外から見えないからいいじゃないか」

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