スポーツマンらしい大きな男だったが、顔色は紙のように白く大きな口をあけてあえぎながら、両手でしきりに咽喉《のど》のところをかきむしっていた。まさしく、毒瓦斯に中毒していることが一眼でわかった。鍛冶屋の大将はまっさきに立ちあがって、その男のそばにかけつけた。
「た、助けてやって、くれたまえ。こ……後車は毒瓦斯がたいへん、だッ……」
とまでいうと、彼ははげしく咳《せき》いった。
鍛冶屋の大将は、
「よォシ、助けてやるぞ」
と叫ぶなり、一座を見わたして、学生を五人ほど指名した。
「さあ、あの防毒壜をくわえて、助けにゆくんだ」
旗男も、防毒面を被《かぶ》りなおした。
学生たちは、鼻の穴に思い思いの栓《せん》をした。或者《あるもの》は、消しゴムを切ったものをつめたり、また或者は万年筆のキャップをつっこんだり、それから、また或者は一時の間にあわせに、綿栓をこしらえ唾《つば》でしめして鼻孔に挿した。
そうしておいて、鍛冶屋の大将を手本にして、防毒壜を口にくわえた。それは奇妙な格好だった。だが誰も笑う者はなかった。尊い勇士たちの出陣だから……。
後車へ飛びこんでみると、そのむごたらしさは
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