ラバラと降ってきた。おどろくまいことか、彼氏の金切声――。
「うわーッ、爆弾にやられたッ……」


   毒瓦斯《どくガス》地帯


 旗男は、思いがけなく親友のお父さんに会って、それこそ地獄で仏さまに会った思《おもい》だった。鉄造は横に座席をあけてくれた。
「どうも、歩《ふ》が一枚足りない……」
 辻村氏は、腰掛の下にはいこんで、なくなった駒をさがしまわっていた。
「ああ、うちの赤ン坊が、手にもって、しゃぶっていましたよ」
 そういって、女が、さっきの騒をまるで忘れてしまったような顔つきで、将棋の駒を返してよこした。車内はすっかり落ちつきを取りかえしていた。呑気な将棋が、救いの神だったのだ。
 野尻湖《のじりこ》近くの田口《たぐち》駅をすぎた頃、客車のしきりの扉が開いて、車掌がきんちょうした顔をして入ってきた。
「エエ、皆さんに申しあげます……」
 車内の一同は、すわ、なにごとが起ったかと、車掌の顔を見つめた。
「エエ、ただ今非常管制がとかれて、警戒管制に入りましたが、警報によりますと、これから先に、だいぶ毒瓦斯を撒かれたところがあるようでございます。殊《こと》に一時間程のちに通過い
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