[#「とたん」に傍点]にお医者さまが卒倒したのと同じように、たいへんなことになる。
 空襲下でも、交通機関は、できるだけ平常どおり動かさねばならぬ――と、鉄道大臣は、大きな覚悟をいいあらわした。
 それは全くむつかしい仕事のうちでも、ことにむつかしい仕事であるのに、鉄道省は、見事にそれをやってのけた。……黒白《あやめ》もわかぬ暗黒の夜に、蛍火《ほたるび》のような信号灯一つをたよりに、列車でもなんでも、ふだんと変わらぬ速さと変わらぬ時間で運転するなんて、神さまでも、ちょっとやれるとおっしゃらないだろう。
 ――これを実際にやってのけたのだから、日本の鉄道の人たちは天晴《あっぱれ》なものだった。踏切や町かどの交通整理を引受けて、働いた青年団員も、実に偉かった。
「おどろきましたねェ、まったく……」
 と、辻村という商人体の乗客が口を開いた。列車の内はすべて電灯に紫布《むらさきぎれ》の被《おおい》がかけられていた。
「国がどうなるかというドタン場に、こうも落ちつきはらって、自分の職場を守りつづけるなんて、イヤ、どうも日本人という国民はえらいですな」
「いや全く、そのとおりでさあ」
 と職工ら
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