て下さい。この方角は駅の前へ出ます。……さあ、皆さん元気で、頑張って下さい。祖国のために……」
 群衆のざわめく姿が、火事を照り返した空のほの明るさで、それと見られたが、かなり集っている。それだのに、これはさっきの群衆とちがって、なんという静粛な人たちだろう。落ちついているのと、あわてているのは、こうも違うものかとおどろいた。
 旗男は、暗夜の交通整理のおかげで、思いがけなく駅の前に出ることができた。それは春日山《かすがやま》駅といって、直江津と高田との中間にある小駅だった。ちょうど東京方面へゆく列車が出ようという間ぎわだった。町を守らねばならぬ義務をわすれて逃げだすような人たちは断られたが、旗男のように、東京方面へ帰るわけがある人たちは、プラットホームへ入れてくれた。
 旗男は、思いがけないほど都合よく汽車に乗りこむことができた。
 ――東京はどうだろう? 病身の両親や、幼い弟妹《ていまい》などが、恐ろしい空襲をうけて、どんなにおびえているだろうか。


   疾走《しっそう》する暗黒列車


 空襲をうけたといって、すぐ交通機関が停《とま》るようでは、ちょうど、手術にかかったとたん
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