れ別れさ。僕は警備員なんかに徴集され、お前のような女達は、甲州の山の中へでも避難することになるだろう。しかし逃げるのが厭なら、お前も働くのだよ。例えば避難所や消毒所で働くのだよ」
「避難所や消毒所? それ、なアに」
「避難所は毒瓦斯《どくガス》の避難所だ。大きい小学校とか、映画館とか、銀行とかいった丈夫な建物を密閉して、そこへは毒瓦斯が侵入しないように予《あらかじ》め用意をして置いて、さあ毒瓦斯が来たというときには、往来に悲鳴をあげている民衆を呼んでやるところさ。消毒所は、もう毒瓦斯が地面を匍《は》ってやって来て、そいつのために中毒して道路の上に倒れる人が一時に沢山出来るわけだが、その人達を担架《たんか》に乗せて消毒所に収容し、解毒法を加える役目なんだ」
「そんなところで働く方がいいわ。しかし一体、戦争は始まるのかしら。そして空襲されるとしたら、一番どこからされ易《やす》いの」
「それは第一が中華民国の上海《シャンハイ》とか広東《カントン》とかいった方面から。第二は露西亜《ロシア》のウラジオから。第三は太平洋方面あるいはアラスカ方面から」
「まア、どの国も、日本を狙っている国ばかりなの
前へ
次へ
全33ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング