そうだ。北九州の護りは、今のところ、日本にとって一番重要なんだ。ここを突破しなけりゃ、中国大陸からいくら飛行機を送ってきても駄目だ。今夜か明日ぐらいに、また面白い射的競技が見られるというものさ」
帝都突如として空襲さる
――昭和×年五月、上野公園高射砲陣地に於て――
「今夜は、どうやらやってくるような気がしてならん」と高射砲隊長のK中尉がつぶやいた。
「やってくると申しますと……」今日着任したばかりの候補生が訊きかえした。「敵機襲来なんですか?」
「うん」K中尉は、首を上下に振った。
「俺《わし》の第六感は外《はず》れたことがないのだ。それにしても、もう午前三時を過ぎた頃じゃろうが……」
中尉は左臂《ひだりひじ》をちょっと曲げてウラニウム夜光時計をのぞきこんだ。
「しかし隊長どの、防空監視哨からは、何の警報もないじゃないですか。監視哨は、東京を取巻いて、どこの線まで伸びているのですか」
「監視哨は、関東地方全部の外に、山梨県と東部静岡県とを包囲し、海上にも五十キロ乃至《ないし》七十キロも伸びているのだ。もっと明白にいうと、北の方は勿来関《なこそのせき》、西へ動いて東
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