も、爆音ともハッキリわからない音響が、だんだん激しく鳴りだす。照空灯は、クルリと右へ旋廻すると、また急に左へパッと動いた。そして心臓の鼓動のように忙しく点いたり消えたりした。
 阻塞《そさい》気球が、敵機をひっかけようとヌーッと浮んでいるのが、チラリと見えた。


   毒瓦斯と闘う市民の群


 ――昭和×年十一月、帝都の新興街、新宿附近にて――

「純ちゃん。まだ云って来ないネ」
 少年団の天幕《テント》の中に、消灯用の竿竹を握っている少年が云った。
「もう来る時分なんだが……」と相手の少年は云った。
「でも来ない方がいいよ、そうじゃないか太郎ちゃん」
「警戒管制が出てから、もう一日以上経ったね」
「うん。警戒管制が出て、不用な電灯を消して歩いたのは昨夜《ゆうべ》の九時だったからネ」
「さっき、空襲警報がいよいよ本当に来たときは、米国空軍なんか何だいと思ったよ」
「あいつらは太平洋方面から航空母艦でやって来るわけだから、千葉県を通って来るんだネ」
「そうサ。今頃は、小笠原の辺で砲火を交えている日米の主力艦隊の運命が決っている頃だろうが、きっと陸奥《むつ》や長門《ながと》は、ウエストバージニアやコロラドを滅茶滅茶《めちゃめちゃ》にやっつけているだろうと思うよ」
「軍艦はやっつけても飛行機だけは、航空母艦から飛び出して、隙間を通ってやってくるんだから、いやになっちまうな」
「しかし、もう平気だよ。この前、爆弾で家《うち》を焼かれちまった下町の人なんか、家がなくなって、これでサバサバしたといっていたぜ」
「そうかい」
「あの辺へ行ってみると、直径が十メートルから二十メートルもの大穴がポカポカあいているんだぜ。五十キロ以上一トンまでの爆弾がおっこって作った穴だってさ。下町の人は、その穴の中へ、横の方へまた穴を掘ってサ、その中に住んでいるんだよ。僕、暢気《のんき》なのに呆《あき》れちゃった」
「ふふン、そうかい。一番小さい爆弾で、どのくらい強いんだい」
「まア十二キロぐらいのものでも、落ちれば五メートル位の直径の穴をあけ、十メートル以内の窓|硝子《ガラス》を壊して、そして木造家屋なんか滅茶滅茶に壊してしまうんだぞ」
「それじゃ、一トン爆弾なんて、大変だネ」
「うん、大変だ。ほら、浅草の八階もある万屋《よろずや》呉服店のビルディングに落ちたのが一トン爆弾だよ。地下室まで抜け
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