しくなることを悦んでいた。撒水自動車が近づくと気流がはげしく起った。
博士はハッと身を縮めたが、撒水のはげしい勢いのために、ふきとばされそうになった。
「これはいけない」
と思っているうちに、ものすごい突風がやってきて梢《こずえ》にしがみついている博士の身体を軽々とふきとばした。
瓦斯体《ガスたい》に化した清家博士の身体は、つぎつぎに起る突風のため、だんだん博士邸より遠くへ飛ばされてゆくのであった。
「弱ったなあ、これじゃ実験室へいつになったら帰れることやら――」
博士の心細さは、だんだんつのってくる。
突風は、さらに博士の身体をあおった。博士の身体は、弾力を失ったゴムのように、しだいしだいに細長くのびてゆくのであった。
博士はそれに気がついたとき、実に愕《おどろ》いた。それというのも、博士の頭が、煙突にコツンとあたって、あっ痛《いた》と思わず身体を縮《ちじ》めたとき、博士の足は、その煙突から一丁も放れた或る喫茶店の窓にひっかかって、靴がポロリと脱《ぬ》げたのであったから。そのとき博士の身長は、もう一丁を越すほど長くのびてしまったのである。
「ありゃりゃ、これは始末にいか
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