ぼく》に恵《めぐ》みをお垂《た》れ下さいまし」
 さすがの清家博士も、もはや科学にたよることができなくなって、神に祈った。どうかして、このベッドルームの空間にフワついている気体化した自分の身体が同じ気体化した妻君の身体と交ざってしまわぬことを念じたのであった。果して神様はこの新入の下僕に恵みを垂れたまうや否や? そのときであった。
 窓ぢかくにおいて突然ドエライ音響がした。板で叩きのめすような衝動が清家博士の身体を襲った。
「ナ、なんだろう?」
「キャーッ」という声は、どうやら妻君の声らしい。彼女は戸棚の上あたりにフワついているらしい。と思う間もなく、つづいてなにかドンと鈍《にぶ》い音がして窓と向き合った扉《ドア》にぶつかったものがある。そいつが転げ落ち床をコロコロと動くのを見れば、それはスポンジボールであった。それで音響の原因が分った。


   迎いの風


 清家博士夫妻は、寝室のなかで、別々に空気のように透明となり、空気のようにフワフワ宙に浮いているところへ、そのスポンジボールが飛んできて硝子窓をわったのである。
「ちぇッ。また向いのイタズラ小僧がホームランを出しやがったな。硝
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