か博士の舌打ちの音が聞える。


   消身剤


 粉末の消身剤をのんだ清家博士は、トタンに大後悔した。まさか妻君が、それを同時にのむとは考えていなかったのである。

 粉末の消身剤は、例の電気的に消身する青い器械とは効力がちがっていた。粉末の方は、ずっと前に発明したもので、効き目は青い器械よりは強い代りに欠点があった。

 それは、飲めば身体が空気と同じようにフワフワになってしまうことだった。青い器械の方ならば、姿こそ見えね、身体はそのままでいられる。

 粉末の方はフワフワになった上、二十四時間経たねば元のとおりに帰れない。

 しかも一人がフワフワになると、空気のように両方が交《ま》ざってしまう虞《おそ》れがある。もし交ざってしまえば、二十四時間後にはどんな変ちきりんな身体になるか分ったものではない。一つの身体に頭が二つ生え、手が三本に、足が二本になるかもしれない。
「チェッこれはどうなるのだ!」
 清家博士は、あまりの恐怖に気が遠くなりそうだった。
 フワフワになった筈の妻君は、今この部屋の何処で何をしていることやら。


   ボール


「おお神様、あなたの哀れな下僕《げ
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