階段を下りてゆこうとすると、下から妻君が現れた。彼は習慣でハッと思った。でもすぐ気がついて妻君には彼の姿が見えないんだから、恐れるところはないと思って、悠々階段を下っていった。
すると妻君がいきなり目を見開いていった。
「――ああ貴郎《あなた》ア、こんなところにいたんだネ。ウーム、この虫けら奴」
捕虜
清家博士は妻君のために雁字《がんじ》がらめに縛りあげられ、ベッドの金具に結びつけられた。もう逃げることはできなかった。
「なぜ俺の姿が見えるようになったんだろう。さっきあの発明器械を使ったときは、たしかに身体が見えなくなったのに」不思議不思議と考えているうちに、博士はやっとその理由を了解した。それは屋根で昼寝をしているとき雨にうたれたが、雨で全身濡れたため身体につけて置いた消身電気《しょうしんでんき》が濡れた服を伝わって逃げてしまったのにちがいない。身体を濡らすことはよくないことだと始めて悟ることができた。夜に入って、妻君がベッドの上に乗ったとき、博士はさも悲しそうな声を出して、戒《いまし》めの綱を解いてくれるように哀願した。
「ほんのすこしだけですよ」
妻君は彼をベ
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