に、こっちがはまったことになる。まったくわれながらだらしがないわい」
検事は、苦笑してくやしがった。
「とにかくこの黒箱は持ってかえって、なおよくしらべてみましょう。時間をたっぷりかけてしらべると、もっとはっきりしたこの器械の性質なり使いみちなりがわかるかもしれません」
「そうしてくれたまえ」
そこでふたりは、ヤナギの木かげから腰をあげた。
「検事さんは、これからどうしますか」
「もう一度、二十世紀茶釜の小屋のようすを見てから、役所へもどることにしよう」
「では、おともしましょう」
ふたりは、道をひきかえして、浅草公園のうらから中へはいった。
さっきまで大にぎわいだった小屋のあたりには、もう人影もまばらだった。
小屋のまえに立ってみると、あの景気のよい呼びこみの声もなく、にぎやかすぎるほどの楽隊の楽士たちも、どこへ行ったかすがたがなく、表の札売場《ふだうりば》はぴったりと閉じられ、「都合により本日休業」のはり紙が四、五枚はりつけられ、そよかぜにひらひらしていた。
ふたりは、小屋の中へはいってみた。
なかには、もちろん見物人はただのひとりも残ってはいず、この小屋の雑用《ざつ
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