るが、もう誰も以前のように、その綱わたりが成功するか失敗するかについて、手に汗をにぎっていなかった。成功するのは、もうあたりまえといってよかった。
ところが、その予想が狂ったのである。二十世紀茶釜は、綱のまん中まできたとき、とつぜんすうーッと下に落ちていった。
がちゃーン。
金属的なひびきがして、二十世紀茶釜は、舞台のゆかにあたってこわれてしまった。
「やあ、茶釜がこわれた」
「ようよう、芸がこまかいぞ。二十世紀茶釜は、このとおり種もしかけもありませんとさ」
「ああ、そうか。わっはっはっはっ」
見物席のわきたつ中に、きも[#「きも」に傍点]をつぶして、その場にぶっ倒れそうになったのは、興行主《こうぎょうしゅ》の大学生|雨谷《あまたに》だった。かれは、こわれた釜のそばへかけより、ひざを折って破片《はへん》をひろいあつめ、むだとは知りつつも、その破片をつぎあわしてみた。
だめだった。二十世紀茶釜はもとのとおりにならなかった。かれは落胆《らくたん》のあまり、場所がらをもわきまえないで、舞台にぶっ倒れて、おいおいと泣きだした。
「おい、あそこにあやしい奴がいる。逃げるつもりらしい。逃
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